暗闘の日々
あの頃のことは、今でも鮮明に覚えています。毎朝、出社して最初にすることは資金繰り表の確認でした。来週の支払いは乗り越えられるか。入金はいつ入るか。約40名の社員の給与を払えるのか──。
私たちは建設・内装工事を主力とする会社です。多くの施工に実績があり、長年安定した経営を続けてきました。しかし、外部環境が変化し、状況は一変しました。
建設需要が急激に落ち込み、追い打ちをかけるように原材料価格が高騰。売上は大幅に減少し、利益率は悪化の一途をたどりました。
「毎日が綱渡りでした。目の前の資金繰りに追われて、中長期的なことを考える余裕はまったくありませんでした。このまま会社が潰れてしまうのではないか、社員と家族の顔が頭をよぎりました。」
見えていなかった「もう一つの問題」
資金繰りの逼迫だけが問題ではありませんでした。実は、受注する案件の選別基準が曖昧だったのです。
「仕事があるだけありがたい」──そんな思いから、採算性の低い案件まで引き受けてしまい、忙しいのに利益が出ないという悪循環に陥っていました。どの案件が赤字でどの案件が黒字なのか、正確に把握する仕組みすらありませんでした。
問題の根は深く、施工現場の原価管理も不十分で、工事完了後に想定外のコストが発覚することも珍しくありませんでした。
再生への第一歩
専門家に相談したのは、取引のある金融機関からの紹介でした。正直なところ、「コンサルタントに何ができるのか」と半信半疑でした。しかし、最初の面談で姿勢が変わりました。
「まず、御社の財務状況を徹底的に分析させてください。数字に向き合うことが、再生の第一歩です。」
その言葉通り、事業別・顧客別の収益構造が精密に分析されました。これまで感覚的に理解していたことが、数字として目の前に突きつけられました。
計画と実行 ── 数字で語る再建の道筋
財務分析の結果をもとに、経営改善計画を策定しました。不採算事業の縮小と成長領域への経営資源の集中を柱とし、具体的な行動計画とKPIを設定しました。
受注判断基準を明確化し、「この粗利率を下回る案件は受けない」というラインを設定。最初は「仕事を断るなんて」と抵抗もありましたが、数字で説明されれば納得せざるを得ませんでした。
「受注を断ることは怖かった。でも、低採算案件を受け続けることの方がよほど危険だと気づきました。断る勇気を持てたのは、数字の裏付けがあったからです。」
金融機関への説明も、再生計画書をもとに行いました。返済条件のリスケジュール交渉を支援していただき、資金繰りの安定化を実現できました。
現場を変える
計画だけでは会社は変わりません。施工現場の管理体制も根本から見直しました。
週次の資金繰り表を作成し、キャッシュフローの予測精度を高める。入金サイトの短縮交渉、支払条件の最適化。工程管理の標準化、外注先の評価基準の明確化。一つひとつは地道な取り組みですが、それらが積み重なって確実に変化を生み出していきました。
部門別の行動計画に基づくKPIレビュー会議を月次で実施し、PDCAサイクルを回す仕組みも定着させました。「数字で語る」文化が、少しずつ社内に根づいていきました。
黒字転換 ── 1年で見えた光
支援開始から1年。営業利益の黒字転換を達成しました。
受注判断基準の導入により、粗利率は大幅に改善。週次資金繰り管理の定着で、資金ショートのリスクは解消されました。施工原価管理の精度向上により、工事完了後の想定外コストは大幅に減少。
数字の改善以上に大きかったのは、社員の表情が変わったことです。
前を向いて
あの暗闘の日々を振り返ると、経営が最も厳しい時に「一緒に立て直しましょう」と言ってくれる存在がいたことが、どれほど心強かったかと思います。
「経営が本当に厳しい時期に、資金繰りから組織体制まで一緒になって立て直していただきました。数字に基づいた判断ができる体制が整い、社員一同、再び前を向いて仕事に取り組めるようになりました。」
今、私たちは新たな成長領域への挑戦を始めています。リノベーション需要を捉えた新サービスの立ち上げ。かつての危機的状況が嘘のように、社内には前向きなエネルギーが満ちています。
危機は、変わるためのチャンスでもある。私たちはそのことを、身をもって学びました。
※本事例は、当社の支援内容をわかりやすくお伝えするために内容を一部調整しています。