変革前夜 ── 長年の歴史が生んだ「見えない壁」
長年にわたり事業を展開し、着実に事業を拡大してきました。社員は約300名規模となり、受注実績も十分にある。しかし、社内に目を向ければ、業務のあらゆる場面に「紙」が溢れていました。
現場からの日報はFAXで届き、それを事務スタッフが手入力する。資材の発注書は複写式の伝票。工程管理はホワイトボードに手書き。ベテラン社員にとっては長年慣れ親しんだやり方でしたが、若手社員からは「なぜこんなに非効率なのか」という声が上がり始めていました。
「正直に言えば、デジタル化が必要だということは頭では分かっていました。しかし、何から手をつければいいのか、誰に相談すればいいのか、まったく見当がつかなかったのです。」
もう一つ、私が危機感を抱いていたのは「組織の一体感」でした。長年、明文化された経営理念がなく、各部門がそれぞれの判断で動いている。多くの社員が同じ方向を向いているという実感が持てませんでした。
転機 ── 「DXだけでは足りない」という気づき
最初に相談したのは、DXの導入支援をしてくれるIT企業でした。しかし、話を聞くほどに、私たちに必要なのは単なるツール導入ではないと感じるようになりました。
そんな折、中小企業診断の存在を知りました。初回の面談で印象的だったのは、DXの話よりも先に「御社が大切にしてきたものは何ですか?」と聞かれたことです。
「システムを入れる前に、まず会社の軸を定めましょう。理念なきDXは、ただの道具入れ替えになってしまいます。」
この言葉が、私たちの変革の出発点になりました。
理念の再発見 ── 全員で語り合った「私たちは何者か」
支援の第一歩は、経営理念・MVVの策定でした。経営陣だけでなく、各部門のキーパーソンを交えたワークショップを何度も重ねました。
現場監督が語る「安全な道路を子どもたちに残したい」という想い。営業担当が大切にしてきた「地域との信頼関係」。総務部門の「社員が安心して働ける会社でありたい」という願い。それぞれの立場から出てきた言葉を丁寧に紡ぎ合わせ、全社員が共感できるミッション・ビジョン・バリューが生まれました。
このプロセス自体が、部門を超えた対話のきっかけとなり、「同じ会社で働いているのに、こんなに話したのは初めてだ」という声があちこちで聞かれました。
DXへの挑戦 ── 200の業務を可視化する
理念という軸が定まった後、いよいよDXへの取り組みが始まりました。
まず行ったのは、全部門の業務の棚卸しです。多数の業務プロセスを一つひとつ洗い出し、フロー図に落とし込んでいきました。この作業を通じて、重複している業務や、誰も理由を知らないまま続いている承認フローが数多く見つかりました。
「業務棚卸しは正直、面倒な作業でした。でも終わってみると、自分たちの仕事の全体像が初めて見えた。『ここは変えられる』というポイントが明確になったのは大きかったです。」
その上で、中期のDXロードマップを策定。施工管理のクラウド化、資材発注のシステム化、AIを活用した工程最適化──優先度の高い領域から段階的に導入を進めていきました。
人を育てる ── デジタルスキルの底上げ
ツールを導入するだけでは、現場は変わりません。私たちが特に力を入れたのが、社内人材の育成でした。
管理職向けのDXリテラシー研修、現場リーダー向けのデジタルツール活用講座、若手社員向けのデータ分析基礎講座。階層別にプログラムを設計し、体系的に実施しました。
当初は「こんなの覚えられない」と渋っていたベテラン社員も、若手がマンツーマンでサポートする仕組みを作ったことで、少しずつ前向きに取り組んでくれるようになりました。結果として、大多数の社員がDX研修を受講。世代を超えたコミュニケーションが生まれたのは、思わぬ副産物でした。
見えてきた成果
変革の成果は、数字にも表れ始めています。
施工管理クラウドシステムの導入により、現場報告にかかる工数が約4割削減されました。現場からリアルタイムで情報が上がってくるため、問題の早期発見・対処ができるようになり、手戻りも大幅に減りました。
資材発注システムの導入により、発注ミスは大幅に減少。在庫管理コストも削減できました。業務フローの標準化は新人教育にも効果を発揮し、業務習熟期間が大幅に短縮されました。
そして何より嬉しかったのは、社員エンゲージメント調査のスコアが大幅に向上したことです。
これからの歩み
私たちのDX変革はまだ道半ばです。ロードマップに沿って、AI活用による工程最適化という次のステージに挑んでいます。
しかし、最初に理念を定めたことで、どんな変化の中にあっても「自分たちは何のためにこの仕事をしているのか」という軸がブレることはありません。
「理念策定からDX推進、人材育成まで一貫して伴走いただいたことで、組織全体が同じ方向を向いて変革に取り組めました。現場の意識が目に見えて変わったことが、何よりの成果です。」
全社員が、一人ひとりの持ち場でデジタルの力を味方につけながら、インフラを守り続ける。その姿こそが、私たちの目指す未来です。
※本事例は、当社の支援内容をわかりやすくお伝えするために内容を一部調整しています。