届かない支援
私たちは、中小企業を支援するための公的支援機関です。職員は約10名規模。各種支援プログラムを提供しています。
経営相談、専門家派遣、補助金申請支援、セミナー開催──メニューは充実していました。しかし、ある年度の実績報告を作成していた時、愕然としました。
支援プログラムの利用企業数が、前年度からほとんど増えていない。多くの中小企業があるのに、私たちの存在を知っている企業はごくわずか。「良いプログラムを用意すれば、企業は来てくれるはず」──そんな思い込みが、いかに甘かったかを突きつけられました。
「正直に申し上げると、私たちの組織には『営業』という概念そのものがありませんでした。窓口で待っていれば相談が来る。広報誌に載せれば読んでもらえる。そんな受け身の姿勢が当たり前になっていたのです。」
変革の決意
このままでは、事業の存続そのものが危うい。何より、支援を必要としている地域の中小企業に、私たちの存在が届いていないという現実が許せませんでした。
しかし、職員は限られています。大がかりな営業組織を作る余裕はありません。限られた人員で最大の効果を上げるには、仕組みそのものを変える必要がありました。
専門家に相談したのは、同様の課題を抱える他の支援機関が成果を上げたという話を聞いたのがきっかけです。
「誰に届けるか」を定める
最初に取り組んだのは、ターゲットの明確化でした。
中小企業をセグメンテーションし、業種・規模・課題別に分類。「すべての企業に均等にアプローチする」のではなく、「今、最も支援を必要としている企業層に重点的にアプローチする」という考え方に切り替えました。
認知から相談、プログラム参加に至るまでのマーケティングファネルを構築。メールマガジンやセミナーを組み合わせたナーチャリング施策も設計しました。
「マーケティングファネルという概念を初めて知りました。企業との接点をどう作り、どう関係を深め、最終的に支援につなげるか。その全体像が見えたことは、私たちにとって革命的でした。」
「話す力」を身につける
営業経験のない職員が、企業にアプローチできるのか。それは最大の不安でした。
その不安を解消してくれたのが、トークスクリプトの整備です。支援プログラムの特長を簡潔に伝える話法、企業の課題をヒアリングするための質問フレームワーク。これらが用意されたことで、職員一人ひとりが自信を持って企業と対話できるようになりました。
さらに、提案資料やパンフレットも一新。各プログラムの特長と導入効果を可視化し、企業の意思決定者に訴求力のある資料体系を構築しました。
最初の企業訪問で、ある職員が帰ってきて言った言葉が忘れられません。
「社長に『こんな支援があるなんて知らなかった。もっと早く教えてほしかった』と言われました。」
届けるべき人に、届くべき情報が届いていなかった。その現実を変えることが、私たちの使命だと改めて感じた瞬間でした。
CRMが変えた情報管理
従来、相談履歴や企業情報はExcelで管理していました。誰がどの企業にいつ訪問したのか、前回どんな相談を受けたのか──情報が分散し、フォローアップの漏れが頻発していました。
クラウド型CRM/SFAツールの導入で、すべてが変わりました。企業情報、対応履歴、案件の進捗が一元管理され、職員全員がリアルタイムで情報を共有できるように。
ダッシュボードで活動状況が可視化されたことで、管理者として適切なマネジメントも可能になりました。「あの企業、1ヶ月フォローしていないね」──そんな会話が自然に生まれるようになったのです。
数字が語る成果
取り組みの成果は、数字に明確に表れました。
支援プログラムへの参加企業数が前年度比で約4割増加。企業訪問件数は大幅に向上。CRM導入により対応漏れがほぼゼロに。メールマガジン施策により、セミナー参加率は約2倍に。
しかし、最も誇らしい変化は、職員一人ひとりの意識の変化です。
架け橋として
「営業という概念がなかった組織に、体系的なマーケティングの仕組みを導入していただきました。職員一人ひとりが自信を持って企業にアプローチできるようになり、地域企業からの信頼も確実に高まっています。」
小さな組織ですが、中小企業と支援制度をつなぐ「架け橋」としての役割を、これまで以上に果たせるようになりました。
「知らなかった」を「出会えてよかった」に変えていく。それが、私たちの新しいミッションです。待っているだけでは届かない。自ら出向き、耳を傾け、最適な支援を届ける。その一歩を踏み出す力を与えてくれたのが、今回の変革でした。
※本事例は、当社の支援内容をわかりやすくお伝えするために内容を一部調整しています。